平澤興(元京大総長)「八十歳になっても人間の成長はこれからである」(続き)
- 教育の基本は、第一はあくまで誉めること。第二はできるまでやらせること。第三は、自分もそれを実行すること。これは、人間が歩き出すときの姿です。
- 誉めるにしても、ただ面だけをみておるような誉め方はだめなのです。誉め方も、裏までみえるような人でないと、本当の誉め方ができないのです。誉めるには、こちらが、それだけの行をしていなければならない。愛情だけじゃ、あかん。だから、誉めるなんて、そう簡単なことではないのです。
結局、人の欠点が目につく間はまだだめです。それらの欠点が「飾り」にみえるようになれば本物でしょう。
- 普通の人は数の少ないもの、珍しいものなどをただ不思議だとか、有り難いというが、それは見方が粗末だからです。いかに、数が多くても、尊いものは尊く、不思議なものは不思議なのです。しかも学べば学ぶほど、知れば知るほど、いよいよその不思議は多くなるばかりです。そうなると万物は有り難く、拝まずにはおれない気持ちになります。
- (八十になっても人間の成長はこれからですか)
ええ、生きる限り、成長することです。あらゆるものに感謝し、あらゆるものを拝みながら、伸びることでしょう。
まぁ、私はちょうど八十五歳になってね、いよいよわからぬということがしみじみとわかってきました。わかったつもりの人はたくさんおられるが、それはまだ勉強が足らないからじゃないかと、正直のところ、思います。
それとね、私がいま幸せだと思っているのは、人間に生まれてきたことだということです。この地上に最初の生命が生まれてきたのが三十数億年前。その三十数億年の生命史を通して各種の植物や動物ができたが、運よくも、その中でも生命の頂上に位する最も尊い人間に生まれてきたということはなんたる幸福だろう。
もう一つ喜んでるのは、今日も元気でおれるということです。話をすると阿呆みたいなことばかりのようだが、しかしいままで、一生懸命に勉強して、やっと、しみじみと腹の底から喜べるようになったのだです。いまが楽しい、いまが有り難い、いまが喜びである、そんな人生がいまの生きた極楽です。
極楽は遠きかなたと 聞きしかど
わが極楽はこの身このまま
- (森)前世の借金が多すぎて、利子もまだ滞っているからですよ。
(平澤)いやいや、人生はしかしね、いくら長生きしてをしても借金を返すような簡単なものじゃないですね。
(森)全く。
(平澤)年ととればとるほど、借金は多くなると思うが、しかし、そういうふうに神仏がつくってくださったんだから、とにかく、有り難く喜んで生きる。生きるなどということは研究すればするほど不思議でね、とてもわからない。
われわれの体は約五十兆ほどの細胞からできているのですね。世界の人口はたったの四十八億、まぁ、五十億と見ても、われわれの体はその一万倍もの顕微鏡的生命が集まっているのです。その五十兆が現在、全部、平和な生活をしておればこその健康ですが、なんとも有り難いことです。
- (平澤)ガンといま糖尿病をやっているが、糖尿病なんていうのも長生きには一番いい病気ですね。喜んで生きとれば必ず長生きができる。大抵の人は警戒をするから栄養失調で死んじゃうんです。私は医者のいう通りにはやらない。
(森)ああ、そうですか。
(平澤)そんなことより、栄養を十分にとって病気を喜ばなきゃ。病気を恐れているようなことでは絶対、だめです。それに、医者にかかったことがないという人は平均したら長生きしとらんのです。途中で、修繕した人は大体、長生きをしている。
結局、病気をせんでは健康の有り難みなんていうのは、わかったつもりだけれども、頭だけではわからない。ぼくらも医者ひと通りのことは知っておったが、ガンになり糖尿病になって、なるほど、昔は口だけでいっとったが、病気になって、やっと健康のありがたみがしみじみとわかる。
だから、いまは病気というものを拝んでいます。病気のおかげで長生きをしとる。
- (平澤)病気と仲良くならなきゃ。親友付き合いをする。親友というのは裏切ってはならんからね。大事なところはチャンと守るんですよ。
医者のいうことはいちいち聞かんが、一番大事なところはちゃんと守る。そうかといって、これを食べたら血糖値が上がるなと思っても、少々くらいはびくびくせずに喜んでいただく。普通の人は食べながらびきびくしてる。まだ、いまの医学では違うことは確かだけれども十分には説明はできません。健康でも、肉体よりも本当は大事なのは精神的な考え方ですよ。だが、これは現代の医学ではまだ十分説明できませんね。説明はできませんが、実際にそうです。
(森)そこが大事なところですね。
(平澤)学問なんてのは、ずいぶん、進歩したっていうけれど、幼稚なもんで、われわれはまだ真理のイロハをちょっとのぞきこんでいる程度ですよ。
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